社員研修も兼ねて

私は鏡石町を担当しているものです。現在チームの規模は小さく弟子も数名ですが、今年1名の新入社員が入ったので、今回の依頼に同行させるつもりでいます。彼はまだ若く年は19歳。私の子供の年齢です。 今回の依頼は同町の農家のお宅からのもので、高齢者の女性から「お風呂の水が流れない」との相談でした。比較的、簡単そうな事例なため、新人教育を兼ねたものとなりました。

その日は晴天で、さわやかな風が車窓から入ってきます。農道を走っていたら、左手に鏡石町名物の「田んぼアート」が望めます。これは使用している稲の色を変え、アニメなどをモチーフとした絵を田んぼに描くもので、大変珍しい形態です。新人君も車窓よりその風景を楽しんでいる様子でした。 道具を積んだ会社のミニバンは農道を走り抜けて、住宅が密集している地域に入りました。

しばらく行くと、どっしとした構えの農家の一軒家が。ここが、今回、我々が施工しに行くお宅です。 チャイムを鳴らすと、しばらくして、この家のおばあさんらしき人が出てきて、丁寧に頭を下げられました。新人君もかしこまっています。 私たちは、すぐに問題のバスルームまで案内されました。 わたしが行った頃には浴槽の中の水は引いていて、そこに少し残っている程度でしたが、これは排水溝の詰まりに違いありません。 「排水溝には髪の毛がよく入り込むんだよ」と新人君に説明すると彼は真剣な顔で頷きました。

そのあと彼に命じて、手にビニールの手袋をはめさせ、中の髪の毛を取り除かせました。出てきた髪の量は多く、これでは水が流れないのも納得です。 その後、排水溝の中に洗浄剤を流し込みしばらく待ちます。その間、私は彼にいろんなことを聞きました。どうやら彼は3人兄弟の末っ子で、勉強が苦手なので高校を出てすぐに就職したのだと言いました。「社会に出たら仕事が勉強だから、それをがんばりなさい」とアドバイスしたら、彼はニコッと笑いました。

20分ほど経ってから、排水口付近をきれいに掃除してみたら、見事シャワーの水が流れていきました。新人君は、こんなに簡単に直るんですねと感心していました。 おばあさんに、別れの挨拶をしてから車に乗り込み、帰路につきました。 田んぼアートは夕日に照らされて、うすぼんやりと見えていました。